臨床・研究グループ

基礎研究

HOME > 臨床・研究グループ > 基礎研究

FUNDAMENTAL RESEARCH

基礎研究

徳島大学大学病院 循環器内科 特任助教
原 知也TOMOYA HARA
病理組織学的・分子生物学的手法で
循環器疾患の病態解明に挑む
 佐田教授は、動脈硬化性疾患の成因と治療法の開発を長年のテーマとしています。特に、血管形成術後の再狭窄や粥状動脈の成因に関する遺伝子改変マウスを用いた研究は世界的に高く評価されています。未だ解明されていない循環器疾患の分子メカニズムを明らかにし、実験モデルを用いて得られた知見を、臨床における病態解明や治療法、イメージング技術の開発に展開しようと研究を継続しています。

疾患の分子メカニズムの解明から、新たな検査法・治療法の開発へ

動脈硬化性疾患は世界的な規模で急速に増加しています。動脈硬化に基づく虚血性心疾患や脳血管障害は、生命予後の悪化や生活の質の低下、ならびに医療経済上の負担を招いており、現代の人類にとって、最大の健康問題のひとつとなっています。一般的に、「動脈硬化性疾患は、血管の慢性炎症を基盤として発症する」という考え方が広く受入れられています。また、心不全や不整脈についても心筋における慢性炎症の関与が、肥満症や糖尿病などの代謝性疾患においても脂肪組織や肝臓における慢性炎症の関与が示唆されています。しかしながら、これらの慢性炎症を惹起するメカニズムについては、十分に明らかになっておらず、予防方法や治療方法の開発についても、十分確立されたとは言えない状況です。
本研究グループでは、遺伝子改変動物モデルや培養細胞モデルを活用し、病理組織学的手法・分子生物学的手法を用いて、慢性炎症・動脈硬化の分子メカニズムを解明し、動脈硬化性疾患に対する新たな検査手法や治療戦略の開発に挑んでいます。

低強度の慢性炎症(low-grade chronic inflammation)に関する研究

メタボリックシンドロームや動脈硬化の発症には、全身性の軽微な慢性炎症(low-grade chronic inflammation)が関与することが知られています。しかし、その全貌は明らかになっておらず、我々はその詳細な機序を解明することで、新たな検査法や治療法の開発に挑んでいます。

自然免疫と慢性炎症・動脈硬化に関する研究

自然免疫は、病原微生物の侵入をいち早く察知し炎症を惹起するシステムです。近年では、自然免疫は病原微生物のみならず、細胞死した自己細胞に由来する成分をも認識し、炎症や動脈硬化に関与することが明らかになりつつあり、その詳細な機序の研究成果を発表しています。

血液凝固と慢性炎症・動脈硬化に関する研究

近年、血液凝固因子は血栓形成に関与するのみならず、様々な細胞・経路を介して炎症を惹起することが明らかとなってきました。凝固因子と血管の慢性炎症、動脈硬化との関係性についての研究成果を発表しています。

循環器系薬剤の機序に関する研究

循環器診療においては、日々様々な薬物治療が開発されています。これらの薬剤は、多数の患者さんを対象とした大規模臨床試験で効果や安全性が確認されますが、臨床研究のみでは、その細胞レベル・組織レベルでの詳細な機序を理解することは困難です。また、適応症以外の病態や疾患に有効な可能性を考慮しても、その効果をヒトで検証するには多くの困難を伴います。また、大規模臨床試験で予想外の結果が得られることも数多くあり、その際には再度、薬物や作用機序に関する基礎的なメカニズムが問われます。

メタボリックシンドロームや動脈硬化に対する薬物治療の研究

動物モデルや細胞モデルを用いて、臨床で使用される様々な糖尿病・脂質異常症治療薬や心不全治療薬が、血管の内皮機能や動脈硬化にどのように影響するのか詳細に検証し、その詳細なメカニズムの研究成果を発表しています。

抗凝固療法の新たな可能性に関する研究

ここ10年で治療薬の進化が目覚ましい抗凝固薬の、血栓形成以外の作用にも着目し、動物モデルや細胞モデルを用いて、抗凝固薬と血管の慢性炎症・動脈硬化との関連を検証しています。特に活性型第X因子阻害薬については2013年頃より抗動脈硬化作用を提唱してきましたが、近年の大規模臨床試験で動脈硬化性疾患に対する良好な成績が続々と報告され、日本でも新規適応症として追加承認されました。研究を臨床につなげられている領域です。

トランスレーショナル・リサーチ

動物実験や細胞実験モデルを用いて得られた知見を、臨床における病態解明や治療法、イメージング技術の開発に展開しようと研究をしています。一例として、徳島大学のクリニカル・アナトミーラボでは、ホルマリン未固定の冷凍遺体(献体)を用いた研究を行っています。実際の人体を対象として、心筋や大血管の臨床的画像診断と、病理組織学的・分子生物学的解析に用いる心血管組織サンプルの採取が同時に可能です。実験モデルから得られた病態生理に関わる重要な因子を、実際の臨床サンプルで測定・検証し、臨床所見と照合することで、これらの因子を標的とした血管の炎症や動脈硬化の治療方法の開発を試みています。

MESSAGE

若き研究者の皆さんへ

 基礎研究というと、とっつきにくくて難しいものという印象を持つ方も多いと思いますが、日常臨床の中で目の前の患者さんに抱く疑問がきっかけになります。私自身、メタボリック症候群や動脈硬化がなぜ生じるのかを解明したく、研究を開始しました。研究を始めるのに、過剰に身構える必要はありません。皆が楽しみながら情熱をもって研究に取り組み、存分に力を発揮できる環境が整っています。興味のある若き研究者の皆さん、ぜひ一緒にこの分野の未来を創っていきましょう。

MORE

up矢印