臨床・研究グループ
心血管カテーテル
CATHETER INTERVENTION
心血管カテーテル分野(冠動脈疾患・末梢動脈疾患)
徳島大学病院 血管造影室一同
病院に運び込まれてから治療するまでの時間を
できるだけ短縮できるように救急医療体制をグループ内で構築し、
患者様の予後改善に努めています。
患者様の予後改善に努めています。
虚血グループは冠動脈疾患、末梢動脈疾患を代表とした動脈硬化性疾患の診療を担当します。具体的には急性心筋梗塞、狭心症、下肢閉塞性動脈硬化、鎖骨下動脈狭窄、腎動脈狭窄などをカテーテル治療により治療します。特に急性冠症候群治療は治療のスピードが重要です。病院に運び込まれてから治療するまでの時間をできるだけ短縮できるように救急医療体制をグループ内で構築し、患者様の予後改善に努めています。また大学院・血管研究グループと連携して、動脈硬化性疾患の診断と治療に関する研究を推進しています。
心臓カテーテル検査
最近、我々は年間約200-230例の冠動脈形成術を実施しています。15%程度が急性冠症候群(Acute coronary syndrome, ACS)に対する緊急手術です。最近は薬剤溶出性ステント(Drug-eluting stent, DES)の登場により再狭窄は減少しています。また小血管に対しては無理にstentを植え込まずに薬剤塗布バルーンを多用しており、DESと同等の治療効果が得られています。また石灰化病変に対してはロータブレータというドリルのようなもので冠動脈内石灰化を切削していましたが、石灰化の削りカスが末梢塞栓を起こしたり、偏心性の病変に対してはうまく削れなかったりすることがありました。数年前からダイヤモンドバックという後方にもダイヤモンドチップを搭載した偏心性石灰化切除deviceが使えるようになっています。様々な道具を病変に応じて使い分け安全で効果的な手技をめざしています。
CAL関連学会受賞歴
待機的冠動脈インターベンション(PCI) | 207 件 |
---|---|
緊急PCI | 30件(うちAMIに対する緊急PCI: 20件) |
ロータブレータ、 ダイヤモンドバックなどの石灰化切削術使用 |
15件 |
末梢血管カテーテル治療 (EVT) | 39件 |
研究内容
クリニカルアナトミーラボ(CAL)を用いた動脈硬化研究
2014年に当大学におきまして,ご遺体を患者に見立て手術手技のシミュレーションや研究を行う施設であるクリニカルアナトミーラボ(CAL)が立ち上がりました.ご遺体の保存方法としては,ホルマリン固定を用いず凍結保存しているため,生体組織に近いサンプルが採取でき,研究者へも害が少ないという利点を有しております.当施設を利用し,以下のような研究を行なっております.
近年,動脈硬化が慢性炎症性疾患であるという概念が確立しており,動脈硬化における冠動脈壁の役割について大きな関心が集まっています.血管外膜にはvasa vasorum,血管内膜にはintra plaque neovesselと称される微小管腔構造が存在しています.我々はこれらの構造物に着目し,動脈硬化との関連について未固定遺体を用いた研究を進めております.
近年,動脈硬化が慢性炎症性疾患であるという概念が確立しており,動脈硬化における冠動脈壁の役割について大きな関心が集まっています.血管外膜にはvasa vasorum,血管内膜にはintra plaque neovesselと称される微小管腔構造が存在しています.我々はこれらの構造物に着目し,動脈硬化との関連について未固定遺体を用いた研究を進めております.
CAL関連学会受賞歴
- Circulation Journal Award 2020 Clinical Investigation Section 最優秀賞
- 第25回心血管インターベンション治療学会中国四国地方会YIA最優秀賞
- Beyond Angiography Japan XXV Poster Presentation Award 最優秀賞
- 第32回心血管画像動態学会YIA最優秀賞
- 第28回心血管インターベンション治療学会中国四国地方会YIA最優秀賞
DCBの臨床成績
当院では冠動脈インターベンションの治療において薬剤塗布バルーン(DCB: drug coated balloon)を積極的に使用しています。これまでに冠動脈小血管(< 3mm)の新規狭窄病変やステント内再狭窄病変への使用は承認されていますが、最近では冠動脈大血管(≧ 3mm)の新規狭窄病変への使用成績が報告されており適応が徐々に拡大しつつあります。当院でも薬剤塗布バルーンの豊富な使用成績を蓄積したデータをまとめ、積極的に学会発表を行なっています。冠動脈インターベンション領域は常に進歩していますが、質の高い治療を心がけ、治療するだけでなく自施設での治療成績をまとめ、報告することが新たな治療戦略やより良い治療成績につながると考えています。
石灰化の成因
虚血性心疾患に対するカテーテル治療における高度に進行した病態として冠動脈石灰化があります。当院では冠動脈アテレクトミー (Rotablator)やOrbital Atherectomy System (Diamondback) を使用した切削を行なっており、近年ではShockwave治療 (Lithotripsy) の有効性も報告されています。動脈硬化が進行する要因は徐々に明らかになっていますが、主たる原因として炎症が関与していることがこれまでに報告されています。当グループでは冠動脈治療と併行して冠動脈石灰化に至るメカニズムの解明を研究テーマの一つとしており動脈硬化グループと協力しながら研究を進めています。今後は冠動脈石灰化に関わる因子のさらなる同定や石灰化の進行を抑制することが可能かどうかなど、原因究明だけでなく臨床への応用を見据えた研究を行なっていきます。
薬剤溶出性ステントの血管反応
冠動脈インターベンション(PCI)は虚血性心疾患の主治療として1977年に始まり、その後にstent内の高い再狭窄率(20-40%)が問題となりましたが、再狭窄抑制薬をstent内に塗布した薬剤溶出性ステント(DES)が市販され、再狭窄に対しては絶大な効果を発揮しました(再狭窄率:0-5%)。本邦では、2004年からDESが使用可能となりましたが、このDES 特有の血管壁に対する反応は、従来の金属性ステント(bare metal stent: BMS)に比し、慢性期における遅発性ステント血栓症を引き起こし易く大きな問題となりました。我々は、同一患者における冠動脈ステント3 種(CYPHER,TAXUS, DRIVER)の慢性期病理組織所見が大きく異なり、第一世代DESの血管に対する過敏反応(Int J Cardiol, 150: e25-e27,2011)を過去に報告し、またDES留置後慢性期の冠動脈造影において塗布薬剤による過敏反応が原因と疑われる冠動脈中膜の破壊像(stent周囲掘れ込み像)の出現に関する論文(Circulation,123: 2382-2391, 2011)が報告され、血栓症との関連が注目されました。我々は前述した所見に注目し、DESの超遅発性血栓症などの機序を解明するためにDES留置後慢性期における局所凝固反応異常についてBMS留置群と比較を行いました。これまで全身血の各種バイオマーカーを評価する研究は散見されていましたが、本研究においては冠動脈入口部および冠静脈開口部より局所採血を行うことにより冠動脈局所の凝固系反応の微細な変化を評価し、プロトロンビンフラグメント1+2などの凝固線溶系マーカーを中心に冠循環における血中濃度変化(Δ)を求めたところ、BMS群に比しDES群で有意に高値であり、慢性期のDES留置後の凝固反応亢進を見出しました。原因としてステント内再内皮化障害、ステントポリマーに対する過敏反応あるいは残存するステント薬剤による組織因子への影響などが疑われました。その後の追加研究ではDESの開発・発展に伴い、局所凝固反応亢進は当初のDESに比し改善されている結果を得ています。すなわち我々のdataはstent留置後の血栓症予防目的で投与される抗血栓薬投与期間短縮という近年の治療傾向を支持しており、その結果もたらされる抗血小板薬投与期間短縮の方針が出血性合併症低減につながることを期待しています。
末梢動脈疾患の血管形成術
近年、下肢閉塞性動脈疾患(LEAD)などの末梢疾患の患者さんが増加し、末梢血管形成術(PTA)を施行する機会が増えています。血管内治療(EVT)と呼ぶ場合もあります。下肢痛がとれ、歩行が出来るようになると患者さんの生活の質が大きく改善し、大変喜ばれます。歩行時に足が痛む場合は膝より上の血管の狭窄が疑われ、安静時の痛み、足の指先のしびれ、色調不良、潰瘍などは膝から下の血管の病変が疑われます。まずは下肢の脈拍触知やABI検査により閉塞性動脈硬化症を正しく診断することがとても重要です。当院にはとても優秀な血管専門超音波技師の先生がおられ、超音波ガイド血管治療(EVUS-guided PTA)も可能です。また血圧の左右差が20mmHg以上ある場合には上肢の鎖骨下動脈狭窄が疑われ、カテーテル手術を行うこともあります。心機能の保たれた肺水腫、難治性高血圧症、進行性腎機能悪化の原因となっている腎動脈狭窄に対しては、腎動脈ステント留置術を行いますが、石灰化が高度の患者さんはステント拡張不良から再狭窄につながり患者さんの予後不良につながります。現在国内では、治療方法が制限されていますが、安全で効果的な腎動脈治療を模索しています。
膝下慢性閉塞病変に対する超音波ガイド治療
膝下脛骨動脈閉塞病変に対するカテーテル治療
MESSAGE
これから循環器内科を目指す若手医師の皆さん
カテーテル治療業界の進歩は目覚ましく、10年前にはうまくいかなかった治療が、現在では新たな技術、道具の導入により治療可能になり、症状の改善がもたらされた患者様もたくさんいます。私達の所属する病院は大学病院であり、新規の治療方法などがいち早く導入されるために治療効果などを従来の治療方法と比較して世界に発信する役目もあります。以上述べてきたカテーテル治療および研究に興味をお持ちの学生さん、医師のかたはご連絡ください。一緒に頑張りましょう(文責:山口 )。